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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)5366号 判決

原告

渡辺伸一

ほか一名

被告

住友海上火災保険株式会社

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らそれぞれに対し、各四四四万八二〇五円及びこれに対する昭和六一年五月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六〇年八月一三日午後零時五分ころ

(二) 場所 群馬県倉渕村大字川浦二六番地先路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 関係車両1 軽貨物自動車〔品川四〇け二一六三(以下「加害車」という。)〕

(四) 右運転者 亡渡辺和久(以下「亡和久」という。)

(五) 関係車両2 普通乗用自動車〔長野一一か二七一三(以下「訴外車」という。)〕

(六) 右運転者 倉田博

(七) 事故の態様 亡和久が加害車を運転し、走行中、倉田博運転の訴外車と側面衝突し、亡和久が死亡し、訴外車が破損した(以下「本件事故」という。)。

2  保険契約の締結

高村清二(以下「高村」という。)は、遅くとも昭和五九年一二月二八日までに、被告との間に、次のとおり、(二)及び(三)の条項を含む自家用自動車総合保険契約(以下「本件契約」といい、本件契約の普通保険約款及び特約条項を「本件約款」という。)を締結した。

(一) 被保険自動車

加害車(高村所有)

(二) 対人・対物責任条項

被保険自動車の所有・使用・管理に起因して他人の生命または身体を害することもしくは他人の財物を滅失・破損または減損することにより、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによつて被る損害をてん補する。

(三) 搭乗者傷害保険特約

被保険自動車の正規の乗用車構造装置のある場所に搭乗中の者が自動車事故により身体に傷害を受けた場合保険金を支払う。

(四) 保険期間

昭和五九年一二月二七日から昭和六〇年一二月二七日まで

3  亡和久の被保険適格

亡和久は、本件契約の記名被保険者である高村の許諾を得て加害車を使用し、かつ、運転席に搭乗中、本件事故により死亡したものであるから、本件契約の対人・対物責任条項、搭乗者傷害保険特約により、保険金請求権がある。

4  損害等

(一) (損害賠償金の支払)

(1) 亡和久は、訴外車の所有者である西武運輸株式会社に対し、車両損害として八九万六四一〇円の損害賠償債務を負つている。

(2) 原告らは、亡和久の両親であり、相続人であるから、亡和久の本件事故による損害賠償債務を承継した。

(3) 原告らは、右金額を西武運輸株式会社に対し、各二分の一ずつ負担して支払つた。

(二) (搭乗者傷害)

原告らは、本件契約の搭乗者傷害保険特約により、各四〇〇万円の傷害保険金請求権がある。

合計 各四四四万八二〇五円

よつて、原告らそれぞれは、被告に対し、各四四四万八二〇五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年月日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)、同2(保険契約の締結)の各事実は認める。

2  同3(亡和久の被保険適格)の事実は否認ないし争う。

3  同4(損害等)の事実中、(一)は知らない。(二)は争う。

三  抗弁

(免責条項)

1 本件約款第六章一般条項第五条(被保険自動車の入替)には、「被保険自動車が譲渡された場合であつても、この保険契約によつて生ずる権利及び義務は、譲受人に移転しません。」「当会社は、被保険自動車が譲渡された後に、被保険自動車について生じた事故については、保険金を支払いません。」との条項(以下「本件免責条項」という。)がある。

2 高村は、昭和六〇年三月ころ、代金一〇万円で加害車を亡和久に売り渡したので、右条項により、原告らの請求は理由がない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実中、1は認め、2は否認する。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)及び同2(保険契約の締結)の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁事実について判断する。

本件約款第六章一般条項第五条(被保険自動車の入替)には、「被保険自動車が譲渡された場合であつても、この保険契約によつて生ずる権利及び義務は、譲受人に移転しません。」「当会社は、被保険自動車が譲渡された後に、被保険自動車について生じた事故については、保険金を支払いません。」との条項(本件免責条項)があることは当事者間に争いがない。

右条項によれば、加害車が高村から他の者に譲渡されていれば、被告は保険金義務を免責されるものである。

そこで、加害車が高村から亡和久に譲渡されたか否かにつき判断する。

加害車が高村の所有であることは当事者間に争いがなく、右事実及び証人高村の証言によれば、以下の事実が認められる。

高村は、東京大学工学部船舶工学科に在学していたが、昭和六〇年三月同大学を卒業し、三菱重工業株式会社に就職し、任地の下関に赴任することとなつた。亡和久は、高村と同じ科に所属していたが、卒業後は大学院に進学することになつていたため、かねてから頻繁に使用していた加害車を譲り受けたい旨希望したので、両者で話し合つた結果、高村は、亡和久に代金一〇万円で譲り渡すこととしたが、その名義変更、代金支払期日については確たる約束はせず、加害車の鍵についても、従前から亡和久が使用することが多かつたため、なしくずしに、亡和久に交付されることとなつた。高村は、加害車を手放したので本件契約について解約しようとし、両親を介して保険代理店に連絡したが、別の車両を購入したときに無事故割引により保険料が安くなるといわれたことから解約を思いとどまり、大学卒業後東京から移転した。両者は、高村が下関に赴任してから後は、加害車の代金の支払や名義変更について、具体的に何もしなかつたので、それらがなされないままであり、加害車の軽自動車税も高村が負担したが、その後本件事故が発生した。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実に徴すると、代金の支払や、名義変更手続きは完了していないものの、加害車の譲渡時期(所有権移転の時期)は、どのように遅くみても、売買契約の履行として加害車の引渡しをした期日として考えられる最後期である高村が大学卒業後東京から移転した以前であるものということができる。軽自動車税の負担は、加害車の所有名義人に対して課せられるものであり、必ずしも所有者であることを反映するものではないし、代金の支払と所有権の移転が連動するものでもないから、本件事故当時未だ高村が加害車を所有していたとは到底言えない。

そうすると、加害車は、本件事故以前に被保険者の高村から亡和久に譲渡されているものであるから、本件免責条項により、被告は、本件事故による保険金支払債務を負わず、原告らの請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

三  以上のとおり、原告らの本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮川博史)

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